「スクールAT」の実態。高校で働くアスレティックトレーナーの仕事って?

こんにちは。ゆうこりんです。

以前の記事☟では、アスレティックトレーニングルーム(ATルーム)のある国内の大学をご紹介しました。

日本でアメリカ式のアスレティックトレーニングルームの運営を実現していると聞いて、見学に行ってみた。@仙台大学

2018-03-13

日本では大学でもATルームがある学校は少ないのに、高校レベルとなるとさらに指折り数えるほどになります。

高校で働くアスレティックトレーナー(AT)のことを、スクールATと呼んだりもします。

スクールATとして有名なのは、現在日ハムで活躍する清宮幸太郎選手の母校、早稲田実業学校。

早稲田実業には現在2代目となるATC(アメリカの資格を持ったアスレティックトレーナー)が常勤し、ATルームを運営しているというのは、ご存知の方も多いかもしれません。

さて以前お訪ねした仙台大学の姉妹校である明成高校には、なんとスクールATが2人も(!)勤務されているとお聞きし、見学させていただくことができました。

▲地平線にアルプスが見え、のびのびと開放感のある学校!

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明成高校で働くアスレティックトレーナーさんに会いにいきました

ゆうこりん
こんにちは!お忙しいところ、見学させていただき、ありがとうございます。
白坂さん
こんにちは。どうぞ〜

出迎えてくれたのは、明成高校のグラウンド脇に位置する川平ATルームで勤務されている白坂さん。この方も、アメリカで大学院まで卒業されたATCの女性です。

ゆうこりん
さっそくですが、高校で2人も常勤アスレティックトレーナーを雇うって、すごいことですよね!どうやってこの環境を実現されているんでしょうか?
小野さん
明成高校は仙台大学と同じ法人のもとに運営されている姉妹校なのですが、このATルームやグラウンドも仙台大学の施設になります。ここで働く私たちアスレティックトレーナーも、高校の職員ではなくて仙台大学の職員なんです。

そうお話してくださったのは、同じく川平ATルームで勤務されている小野さん。彼は、日体協ATと柔道整復師の資格をお持ちです。

つまり、仙台大学が「大学内のATルーム」と「明成高校のATルーム」の2つを運営されている、ということですね。

さらに仙台大学からはS&C(ストレングス&コンディショニング)コーチも高校に派遣されるようになったそうです。

スクールATのみならず、スクールS&Cまで!素晴らしい環境です。

詳しくご紹介していきましょう。

川平ATルームの施設

川平ATルームは、グラウンドのそばにある建物が3つの部屋に分かれており

  • デスクなどが置いてあるオフィス
  • その隣がトリートメントテーブルなどが置いてある部屋
  • そしてその隣がバイクやマシンが置かれたリハビリ/コンディショニング用のスペース

となっていました。

▲(上2枚)トリートメントテーブルなどが置かれた真ん中の部屋。
部員を集めてミーティングなどを行う際もここの部屋を使っているようでした。

▲コンディショニング用の広いスペース。
手前が、高校まで案内してくださった仙台大学勤務S&Cの友人マサさん。感謝です!

奥が小野さん。色々お話してくださいました。

高校で働くアスレティックトレーナーのお仕事とは

この日は春休み期間でしたが、活動している部活も多く、練習が終わるごとに各部活の生徒さんがATルームを利用されていました。

日々のお仕事について、白坂さんと小野さんにお話をうかがうことができました。

生徒たちの自主性に任せた指導

ゆうこりん
生徒さんたち、みなさん自主的にリハビリされていますね。やっぱり、これだけ見る人数が多いと、選手が自分でリハビリできるように指導されているんですか?
白坂さん
そうですね。立ち上げ当初は一人一人手厚くやったりもしていたんですが、利用者が増えてそれではとても見きれなくなってしまったので、色々試行錯誤して今のスタイルに落ち着いています。

選手のみなさんは、受付で自分の名前が記入されたリハビリメニューの紙を受け取り、それぞれバンドやマットを使ったエクササイズをしたり、ストレッチやバイクを漕いだりしていました。

最初の数回はやり方をしっかり指導し、復帰目標を共有し、その後は基本的に選手一人一人の自主性に任せているそうです。

常に1から10まで全て与えるのではなく、自分で考え、行動に移す力を育てることを大切にされています。

人に魚を与えると1日で食べてしまう。しかし人に釣りを教えれば生涯食べていくことができる。

という、中国の有名なお話があります。

この場合もまさに、その場限りでない、生涯使える考え方を教えているということでしょう。

成人アスリートとの違い

ゆうこりん
部活中に怪我をしたら、ここに来てみてもらう、という感じですか?
白坂さん
いえ、まずは顧問に報告してもらうのが一番先です。高校の部活なので、顧問の先生が知らないところでここで何かをする、ということはありません。顧問の判断で、「じゃあATルームで見てもらっておいで」となる場合もあれば、「しばらく休んだらもう大丈夫」となることもあります。

怪我や体調不良が起きた場合、まずは、部活動の責任者である顧問の先生に報告というルールが徹底されています。

高校生は未成年なので、自分で自分の体への対応に全責任を持って物事を決断できるわけではありません。

このあたりは、成人した大学生や、プロアスリートとは異なる点ですね。

小野さんからもこのようなお話が聞けました。

小野さん
プロの選手だと「勝利のため」だけにやれますが、やっぱり高校生がスポーツのことを考えられるのは部活をしている時間くらいです。学校生活もあるし、勉強や進路のこともある。どこまでやるか、できるかはその子次第なので、私たちは彼らが自主的にできる力をつけられるように、教育的な関わりを大事にしています。

テーピングも生徒たちだけでできる環境を!

ゆうこりん
テーピングも巻いたりされているんですか?
白坂さん
テーピングも、最初の一週間くらいは私たちが巻きますが、そのあとはチームメイトやマネージャーの子に巻き方を教えて、自分たちだけでできるように指導しています。それはすべての部活の練習試合や遠征に私たちが帯同できるわけではないので、私たちが一緒にいなくても、いつも通りの準備ができるようにするためです。

なんと、部活の生徒さんたちが自分たちでテーピングを巻いているとは・・・!

私はアメリカでテーピングの授業を履修し、時間があれば誰かに手や足を借りて、在学中を通してめちゃくちゃ練習しました。解剖の理解も必須です。速く綺麗で効果的なテープを巻けるようになるのは、それなりの努力と経験が必要です。

そのため、「やり方」を習うだけではプロのアスレティックトレーナーと同じくらいのテープが急に巻けるわけではないと思いますが、毎日練習のたびにやっていると、必ず上達していくはずです。

お互いに巻きあっているなら「どうだった?」「もう少しゆるくして」などと、よりよくするためのコミュニケーションも取りやすいだろうと想像します。

そもそも自分が高校生の頃は「テーピングの巻き方を指導してくれるプロ」自体が身近にいなかったので、いつもそばにいてくれなくても、相談できる専門家が校内にいるって、すごーーーーくありがたいことだと思います。羨ましい!

▲川平アスレティックトレーニングのサイトより。
健康スポーツ科の生徒さんには、解剖学的な説明も交えてテーピングの技術指導をされているそうです。

男子バスケットボール部には専属のアスレティックトレーナーがいる

ちなみに、明成高校の男子バスケットボール部はインターハイで優勝するほどの名門チームで、部員の8割ほどは県外出身の寮生。推薦入学でバスケをプレーするために入学してきたような生徒さんたちが所属しています。

そのため、男子バスケには高橋陽介さんというATCの方が専属で10年以上勤務されています。

帰り際、高橋さんにもお会いしてお忙しい中お話させていただきました。

高橋さん
やはり、基本は教育的な関わりを一番大事にしています。教育的な指導を行うことが、結局最も怪我を防げるんです。
高橋さん
高校で働く面白さは色々ありますが、彼らの卒業後の活躍を見るのも楽しみの一つですね。先日も卒業生が遊びに来てくれましたよ。

高橋さんからも、短い時間でしたが貴重なお話をたくさん聞かせていただきました。ありがとうございます!

✔明成高校男子バスケ部

明成高校出身で、現在はNBAで活躍する八村塁(はちむら・るい)選手はとても有名ですね。

彼の渡米前の学業とバスケの両立、明成高校のバックアップについて書かれた記事などもweb上にたくさんありますので、興味がある方はぜひ調べてみてください!

 

部活動の生徒の対応以外のお仕事も

ゆうこりん
高校生アスリートのケアや指導においては、教職員の方々といかに協力するかが鍵となりそうですね。
白坂さん
その通りです。最初の頃は特に、私たちアスレティックトレーナーには何ができて、どのように活用してほしいかなどを知ってもらうことに力を入れていました。
ゆうこりん
教職員の方向けに勉強会などをされたりもしていますか?
白坂さん
はい。顧問の先生方には、スポーツ救急法を受講していただく取り組みをしています。みなさん熱心に学んでくださっていますよ。

▲川平アスレティックトレーニングのサイトより。顧問の先生方の熱意と関心の高さがうかがえます。
しかしスポーツに特化した学校でなくても、部活動の生徒を指導する立場の方は必ず必要となる知識ではないでしょうか。

アスレティックトレーニングを広める活動

ゆうこりん
お話をうかがうほどに、生徒さんたち自身にも、そして顧問の先生方にも、傷害や事故の予防から対処法の指導など、あらゆる面からコツコツと活動されていることが伝わってきます。素晴らしいですね・・・!こんな取り組みをしているスクールATがいるって、もっともっと知ってもらいたい!スポーツ安全系のセミナー講師をされたりとかはされないんですか?このお話を聞きたい人はたくさんいると思います。
白坂さん
ありがとうございます。地域の他の学校向けに私たちの活動をお話したりすることはあります。こんなパンフレットも作ったんですよ。よかったらどうぞ!

そう言って、見開きのパンフレットをいただきました。

これがもう、すごいんです・・・・!

個人的には、「日本の学校環境で活動するアスレティックトレーナー」のエッセンスがぎゅっとつまった、もう本当にみんなに見て欲しい資料。これを作成されたお二人の情熱がビシビシと伝わってくるようです。

私のブツ撮りスキルのなさが残念すぎるのですが、特に注目していただきたいのは、米国アスレティックトレーナー(ATC)と日本体育協会アスレティックトレーナー(日体協AT)の両方の資格についてわかりやすく、かつしっかりと説明されているところです。

白坂さんはATCであり、小野さんは日体協ATと柔道整復師の資格をお持ちの専門家です。

それぞれにルーツを持つスタッフがいることで、両方の資格の母体や団体、協会のニュースやアップデートをタイムリーにキャッチでき、現場に活かせるということが川平アスレティックトレーニングの圧倒的な強みではないでしょうか。

ゆうこりん
もし、部活をがっつりやる自分の子供が入学する高校のオリエンテーションでこの冊子をもらったら、「すごいな〜。この高校は本当にスポーツする子供のことを考えてくれているんだな」と感動しますし、安心して子供を部活に送り出せそうです。

川平アスレティックトレーニングの活動を紹介するサイトも運営されています

白坂さん
あとは、私たちのホームページも作ってるんです。よかったら見てください!

ここまでの記事の中でも、「川平アスレティックトレーニングのサイトから」という写真やブログをいくつか引用させていただきました。

ぶっちゃけ、この記事で私の言葉でうだうだとご紹介させてもらった彼らの素晴らしい活動は、このサイトにほとんど書いてあります!笑

近年は特に部活中の死亡事故や、顧問の先生の重すぎる責任と時間外労働の負担も深刻な問題となっており、学校スポーツの安全管理についてニュースで取り上げられることも増えてきました。

学校スポーツを安全に発展させ、子供達が生涯スポーツを楽しみながら健やかに育っていく環境を作るために「スクールAT」の導入を検討されている管理責任者の方々などにとっても、彼らの取り組みや活動実績が参考になることでしょう。

まとめ

スクールATとは・・・

  • 生徒たちが自分の体について知識を深め、自分で対処できる力をつけるために教育的な指導をする
  • 顧問の先生や教職員の方々と連携して、学校全体で取り組みを行っている
  • 地域にもアスレティックトレーナーとしての活動を広めている
  • 生徒たちの卒業後の活躍も楽しみにしている!

明成高校で働くアスレティックトレーナーの皆さん、ありがとうございました。

▲左から、白坂さん、一緒に見学に行ったでぐのぶさん、私、高橋さん、小野さん。
またどこかでお会いできるのを楽しみにしています!

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ゆうこりん

BOC公認アスレティックトレーナー(ATC)でもある整形外科看護師です。 スポーツ医学やアスレティックトレーニングをテーマに空き時間に気軽に読めるメディアを運営。スポーツイベントの救護、スポーツ医学関連団体の広報担当などの活動も行なっています。 内科・耳鼻科・眼科混合病棟→米大学院→スポーツ整形外科。

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BOC公認アスレティックトレーナー(ATC)でもある整形外科看護師です。 スポーツ医学やアスレティックトレーニングをテーマに空き時間に気軽に読めるメディアを運営。スポーツイベントの救護、スポーツ医学関連団体の広報担当などの活動も行なっています。 内科・耳鼻科・眼科混合病棟→米大学院→スポーツ整形外科。