こんにちは。ゆうこりん(@koji_i003)です。
皆さんは、「PA(Physician Assistant=フィジシャン・アシスタント)」という職業を耳にしたことがありますか?
私はアスレティックトレーニングを学びにアメリカに留学していた際に、いわゆる“コメディカル”の一員としてその職業を知りました。
まだ日本では資格としては存在しないので、もしかしたら馴染みのない人も多いかもしれませんね。

さて、私は整形外科で看護師として働いているのですが、先日、仕事でフランス・ニースで行われた肩の学会に参加してきました。
これまでは肩を専門とする整形外科医を対象としたドクター向けの学会のみだったそうですが、今年から『看護師/PA(フィジシャン・アシスタント)』向けと『理学療法士』向けのコースがそれぞれ新設されたということで、職場の肩の部長の医師に誘われて今回私は『看護師/PA』を対象とした学会に参加させていただきました。
今回は、その中の「チームアプローチ」というセッションからの学びと発見をシェアしたいと思います。

↑とりあえず、レア感推してみる。
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目次
PA(フィジシャン・アシスタント)とは

まず、PAとはどのような職業なのでしょうか?
アメリカン・アカデミー・オブ・PAのサイトでは、以下のように説明されています(訳:私)。
PAとは、疾病の診断、治療計画の立案・マネジメント、薬の処方を行い、またしばしば患者の第一のヘルスケア・プロバイダーとして従事する医療従事者である。何千という時間をかけて医療のトレーニングを積み、PAは多方面でチームの一員として活躍する。
PAはすべての州(※ここではアメリカの話)であらゆる医療の現場で働き、ヘルスケアの手の届きやすさと質の向上を得意とする。
職域について
上の文章にもあるように、PAは
- 疾病の診断(diagnose illness)
- 治療計画の立案やマネジメント(develop and manage treatment plans)
- 薬の処方(prescribe medications)
を行うことができます。
「コースの対象者」としてナースとまとめられちゃってるPAですが、これは日本のナースとは大きな違いです。
病名を診断して、今後の方針を決めて、薬まで処方できるなんて、まるで医師ですね。
それもそのはず、PAはそもそも「医師は医師にしかできないことに集中し、医療チームの他のメンバーでその他のあらゆることを分担することで時間を有効活用し、円滑に診療が行えるようにするため」の職業として生まれたのがルーツだと、大学院の授業でもちらっと習いました。
「ドクターの診療の補助をする」という役割が似ているし、教育のバックグラウンドとしても看護師の資格を取ったのちにさらに進学してPAを取る、という道も一般的なようなので、このように学会でもナースとまとめられることが多いのでしょう。
▲学会中のワークショップでの一コマ。
肩の人工関節の手術を模型を使ってレクチャーしてくれました。
ドリルにハンマー、スクリューと整形外科って本当に工作みたいだな〜と思います。
アメリカ人ドクターの「PAさんめっちゃ重宝するんだけど」という話
さて、ここからが本題です。
学会の中で「チームアプローチ」と題されたセッションで、アメリカの医師が講義を行いました。
彼はミシガン州の整形外科センター(私たちがイメージする「クリニック」よりも規模が大きく、手術を行う設備もある施設)で勤務する整形外科医です。
彼の話がそれはもうカルチャーショックすぎて、「これは日本では聞けない話だなぁ・・・」と衝撃を受けたのでこの記事を書いたと言っても過言ではありません。
▲フランスのレストランにはどこも素敵なテラス席が。
記事の内容には直接関係ありませんが、ちょっとこういうのもはさみつつ楽しんでください
「医師の不在」をカバーするPAの存在感
▲針むきだしのシリンジをデスクに置いてるなんてありえないよ〜
以下の内容は、私の講義のメモを見ながら書いています。
まず彼のオフィスでのPAの仕事は、次のように説明されていました。
- チームアプローチ
- クリニック
ー新規の患者
ー術後の患者
ー記録
ー医師が出張や旅行で不在のときの”処理量”の維持
ー骨折
ー注射 - 患者教育
- 研究コーディネーター
- 予約キャンセルの最小化
- 新規患者のトリアージ
- これを「標準(norm)」として定着させること
特に注目したいのは、赤字の部分です。
彼はこのような話もしていました。
「仕事だけではなく、我々はみんな家族と過ごす時間や、余暇を楽しむ時間が必要だ。たとえば私が数日不在にしていても、PAがその間いつも通りの診療をしてくれるおかげで患者も困らず、よいアウトカムが得られ、我々の仕事のパフォーマンスも向上する」
逆に、PAさんたちもお互いに休暇を取れるようにしている、というようなことも言っていました。
こういう考え方って、当たり前だけど日本の社会には不足しがちな感覚ですよね。
本当に医師は休みなく働いているのが国内ではまだまだ一般的ではないでしょうか。
たとえば、感染兆候もなく順調に経過している患者の術後のフォローアップでも、創部を確認してレントゲンとか取って、少しお話して「はい問題ないですね、では次また1ヶ月後に。」というやり取りのために(誇張して言えば)、患者さんはその医師が外来に出ている日に予定を調整して来院して、予約してても結局1時間とか待って、医師も時間押せ押せでまともに食事も取れず、外来の時間が終わっても診察室にカンヅメで・・・みたいな状況って、よくありますよね。
これをもっといろんな担当者で、細かく判断と分業をする診察のフローを作れたら、患者さんも医療者側もハッピーだし効率的だよな〜とみんなが思っているのを、実現している国は実在する。ということではないでしょうか。
利き手を骨折してしまったドクターのピンチを救ったのは・・・

さらに衝撃的だったのは、こちらのエピソード。
医師「以前、恥ずかしいことだが、不注意で利き手を骨折してしまった。
私はしばらくの間、手術を行うのが不可能になってしまった。
しかし私のPAは、何年もずっと一緒に手術に入っていて、誰よりも手術の内容を熟知していた。
そこで私たちは、患者にこのように話した。
『大変申し訳ないが、私は怪我をしてしまい、物理的に「介助」はできても「手術をする」ことができなくなってしまった。だからすでに決まっている手術の予定をリスケジュールするか、もしくは私の介助のもとで彼女(PA)が代わりに手術を行ってもいいだろうか?』
もちろんこれは、私たちと患者との信頼関係があってのことだ。
患者は私のことも、もちろん彼女(PA)のこともよく知っていたので、実際に彼女は私の介助のもとで何人かの手術を行った」

たぶん関節鏡か何かの手術かな?と予想しましたが、今思えば勇気を出して「ちなみにPAの方が先生の代わりに行ったのは何の手術だったんですか?」とか聞けばよかったーーーー。と、反省しています。
めちゃくちゃ気になる・・・!
それにしても、一連の話を聞く限り彼のところで働くPAさんはもはや、フェローのドクターばりの知識と技術を医師らから学んでいることは明らかです。
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この話から何を学ぶか?
▲会場近くのビーチでビーチバレーをする人々もいました。海の色が地中海って感じ〜
さて。「このPAさんの活躍どんだけ〜」話ですが、たとえばこれをそのまま日本で応用したり、よーし病院でこんな人材を目指そう!と自分の人生に直接的に取り入れるのは、簡単ではないと思います。
だけど私は、こういった身近では決して出会えないアイデアや、価値観の話を聞くとすごく心が揺さぶられるし、面白い!!ととてもわくわくします。
人生にはわくわくが不可欠ですよね。
前述のアメリカ人医師が、こう話していたのもとても印象的でした。
“She was a true extender of myself.(彼女は、私の真の「エクステンダー」だった。)”
アメリカには「フィジシャン・エクステンダー」という仕事もあります。
physician(医師)を、extend(拡張する)・er(人)。
彼らの存在によって、一人の医師の手が4本にも6本にもなり、まるでチーム全体が「分身できる多彩な一人の医療従事者」のようなパフォーマンスを実現することによって、患者により質の高い医療を提供することができるというわけです。
Patient care is a dance.

“Patient care is a dance.(患者ケアとは、ダンスだ。)”
これもいい言葉です。
一緒に働いているが、それぞれは独立して機能している。
誰かに言われたとおりのことをただやるのではなく、それぞれが自分の頭を使って行動しながら、一緒にひとつのアートを作る。
これは医療の現場でも、スポーツを支えるスタッフの現場でも同様に大切なことではないでしょうか。
▲“work together and function independently.(一緒に働き、独立して機能する。)”
を実現しているような乃木坂ダンス。
スピーカーの医師も、こういう感じのダンスの映像を見せてくれました。
自分はどう感じるか?にヒントがある
私は、もしアメリカで育っていたらPAになることを目指したかもしれないなぁ・・・と思ったことが何度かあります。
「輝いている部分」を切り取った話ばかりを聞くから、余計に憧れるのかもしれないですけどね。
しかしここで今の私にとって大事なのは、じゃあアメリカでPAのスクールに通おう!自分もPAになる!という方向への努力ではないと思っています。
こういう感情を抱いたときに考えるべきなのは、
たとえば
- なぜ憧れるのか?
- どういう部分をいいなと思うのか?
- どうなれば、自分に「足りない」と感じる部分が満たされるのか?
- 今の場所で、憧れに近づくために「小さくできること」は何か?
ということ。
このほうが、現実的に一歩前に進むための、価値ある自分との対話ができるではないでしょうか。

▲ニースの街はどこを切り取っても絵になる。
もしかしたら、この記事を読んでくださった方の中には
「うちのチームのコーチ、S&C、アスレティックトレーナー、チームドクターももっと”ダンス”のように機能したいな」という感想を持つ人もいるかもしれません。
あるいは、「私ももっと、自分の責任と判断で、スキルを活かした仕事がしたいな」とか。
逆に、「名もなき何でも屋になるのはイヤだな」と思う人もいるかもしれません。
何かを感じて、それが自分の中のどういう思いに由来するものなのかをじっくり探すのも、一見自分に関係ないと思われるエピソードを聞いたときのひとつの味わい方だ、と私は考えています。

もちろん、肩のライブサージェリーを見たり、医師ごとの考え方や術式の違いを知ったりと、肩の整形外科についてもたくさん学びました。
たまには自分の行動範囲からはずれた価値観に触れてみるのも、いい思考のトレーニングになりますね。
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ゆうこりん

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だからこの日のお話を日本語で書いているのは、世界中に私だけ。この記事だけですよ〜〜!!