スポーツ脳振盪について知っておくべきこと5つ

こんにちは。ゆうこりんです。

今回は、2017年11月25日に開催された、4回スポーツセーフティシンポジウムで私が学んだ内容のまとめ記事を加筆・修正したものです。

本当はすべてのトピックについて書きたいのですが、特に印象深かった東邦大学医療センター大橋病院の脳神経外科医・中山晴雄先生の講義についてまとめます。

興味があったけど参加できなかった方へのご参考になれば幸いです。

※情報のソースは講義で使用されたレジュメと講義中にとったメモです。できる限り正確な情報を記載するように注意していますが、データは研究論文等からの直接の引用でないことをご了承ください。

1. 急性硬膜下血腫について

スポーツ頭部外傷として多いものは急性硬膜下血腫です

これは、スポーツ死亡事故の主たる原因となっており、30-50%と非常に死亡率の高い外傷です。

急性硬膜下血腫が起こるメカニズム

脳は、よくパックに入った豆腐に例えられることから想像できるように、頭蓋骨の中で髄液(cerebrospinal fluid=CSF)と呼ばれる液体の中にぷかぷか浮かんでいます。

そしてただ浮かんでいるだけでなく、それらは頭蓋骨の内側と血管でつながっています。

それが、頭が激しく揺さぶられることによってその細かい血管がぶちぶちっと切れ、逃げ場のない頭蓋骨内で出血が起こり、血腫が形成されて脳が圧迫されることよって脳の機能に障害が起こります。

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出展:ナースフル

簡単にいえば、脳が揺さぶられ、血腫ができるほど血管はちぎれなかったけれど微小なダメージが脳に与えられたものを脳振盪、勢い余って血管がちぎれて出血をきたしたものが急性硬膜下血腫ということです。

頭をぶつけなくても血管は切れる!

ここでポイントなのは、この脳をつなぎとめている血管が切れるのに、必ずしも頭を激しくぶつける必要はないということです。

先生のお話で印象的だった例としては、

・高齢者が転んで尻もちをついた衝撃で出血するケース

・若い人でも、ジェットコースターで激しく振り回されて出血するケース

なども実際にあるそうです。

あまりあって欲しくないことですが、特に夜間や朝方に、病棟で転倒する高齢の患者さんもよくおられます。「頭は打ってない」場合、じゃあ頭部は大丈夫だな、と安易に考えてしまいがちなので、この部分は注意して観察が必要ですね。

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ヘルメット着用で急性硬膜下血腫や脳振盪は防げない

上記の話からもわかるように、いくら性能のいいヘルメットを被ったところで「脳へのエネルギーの伝達を弱める」ことはできても、「頭蓋骨の中で脳が動く」のを完全に防ぐことはできません。

アメフトのヘルメットは、顔の骨折などの予防のためというのが主な使用目的です。

これはもう周知の事実ですね。

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2. 脳振盪はCTにはうつらない!

これも、少しでもスポーツ医学を勉強したことがある方ならもはや当たり前のことかもしれませんが、例えば同シンポジウムの他の講師のお話しで

「ラグビーの試合中に激しく頭を打ち、継続する頭痛と評価の結果脳振盪が疑われたため選手を町医者に送ったが、医師に脳振盪ではないと診断されて帰ってきた」

「どんな検査を受けたのか詳しく聞くと、”CTを撮って問題ない、大丈夫と言われた”と報告され、頭を抱えた」

というような仰天エピソードもありました。

一般の人にとっては医師はみんな医師免許を持っている医療のプロに見えるかもしれませんが、医師もそれぞれ専門分野が細かく分かれていて、自分の専門以外のことは研修医時代の知識で止まっており、正直あんまりよくわかっていないということは多いです(これは非難とかではなく、高度な知識と技術を要する専門職とはそういうものだ、ということです)。

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脳振盪の診断は症状でしかできない

では、どうすればいいのでしょうか?

硬膜下血腫と違い、2017年現在、脳振盪は症状でしか診断がつけられません。

脳振盪の症状と正しい対処法、復帰プロトコルに精通しており、最新の情報を学び続けている医師やアスレティックトレーナーの指示に従ってください。

なぜ「最新の情報を学び続けている」を強調したか?

それは、医療のスタンダードは日々研究により変化しているからです。

ひと昔前では当たり前とされていたことが、現在では「効果がない・あるいは症状を悪化させる可能性も否定できないため、行わないように」と専門の学会から提唱されている、なんてことも普通にある世界だからです。

あなたの大切な脳の状態を見てくれた人の「知識」は、本当に信頼できるものですか?

自分や大切な人の命は、自分で守りましょう。

3. 脳振盪で意識消失があるのは1割以下

これも脳振盪について必ず知っておかなければならないことです。

よく昔のスポ根まんが?とかで描写される脳振盪のイメージとして、

ラグビーでタックルを受けた選手がその場で気絶。そこに先輩がやってきてヤカンの水をばしゃっ!とかけてハッと目がさめる、みたいなシーン。

こういうのを脳振盪だと思っていると、激しく倒れてちょっと頭が痛いくらい全然平気、となりかねません。

下の図を見てください。

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参照URL:

Zurich 2012 – What’s new in Sport Concussion? – ppt video online download

意識レベルの診断によく用いられるグラスゴー・コーマスケールでは、mildからsevereな意識障害しか診断することができません。

しかし、スポーツ脳振盪ではminimalの範囲からもう脳に障害が起こっているのです。

minimal(極小)なので、一時的にでも意識を失ったり、記憶が飛んだりまではしていないケースが多々あります。

ただ、「なんとなくいつもと違う感じがする」といったような、微細な知覚の変化が起こる程度なほうが実際は多いのです。

この「なんとなくいつもと違う感じ」を、客観的に、系統立てて観察・評価する様々なツールが専門家チームによって日々開発されています。

その中でも代表的なもののひとつがSCAT5(スキャットファイブ)というわけです。

ここからダウンロードできます☟

http://sportconcussionlibrary.com/scat5-the-cr-card-and-the-childs-scat5/

この中の「CRT Tool」というのは、医療従事者などの専門家ではない、一般の人が評価をするときに使用できる簡単な評価スケールです。

4. 子供の脳振盪〜子供はサイズの小さな大人ではない

上のリンクの中にもありますが、12歳以下の子供の脳振盪の診断にはChild SCAT5を用います。

また、診断だけでなく、患者が子供の場合、治療にも特別な考慮が必要です。

子供の脳は大人よりもダメージに弱い

子供の脳はまだ発達途中であり、脳が発達しきった大人よりもダメージに非常に弱いです。

そのため、脳振盪になってから症状が完全に消失し、低下した脳血流が元に戻るまで成人だと平均約2週間のところ、子供は約1ヶ月以上と、倍の時間がかかることが分かっています。

大人と同じペースで復帰のプロトコルは作成できない、ということですね。

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5. フィールドで求められるのは脳振盪ではなくGo or No Goの判断

最後に、ではこれらを知って、実際にトレーナー/コーチ/保護者としてコンタクトスポーツに関わっている人たちは、何を考えて試合や練習を見守っていればいいのでしょうか?

これは先生が講義でお話しされていたのですが、フィールドやサイドラインにいる人に求められているのは「脳振盪を正確に診断することではなく、このままプレーを続けていいのか、それとも今すぐやめなければならないのか?(Go or NO Go)」ということです。

ただ1つでも脳振盪が疑われる所見があれば、その日は絶対に競技に復帰させてはいけません。

この判断を誤ったことで重大な事故につながれば法的責任に問われることになります(今回のシンポジウムでは弁護士の先生からスポーツ事故の判例に関する講義もありました)。

スポーツで起こりうる傷害や事故は様々

そして、選手がフィールド上で倒れたときに心配しなければいけないのは、何も脳振盪や急性硬膜下血腫だけではありませんよね。

まずはきちんと全身状態を観察すること。

有効な自発呼吸があるか。

首の怪我が疑われることはないか。

それから、頭大丈夫かな・・・などと局所の心配をしていきましょう。

脳振盪だけでもなんだか色々知っとかないといけないことがあるのに、それに加えて熱中症、頚椎損傷、心停止、骨折や大出血や様々な怪我の危険がスポーツ現場にはいっぱいありすぎて、何が起こっても適切に対処ができるほど知識をつける時間も自信もない。。

そんな状況のために、アスレティックトレーナーという専門家がいるのです。

(きたぞ〜〜〜!)

この記事を執筆している私自身も現在コンタクトスポーツの現場でがっつりトレーナー活動とかしているわけでもないのに、このようなシンポジウムで学び、今すぐ仕事で必要なくても知識として消化・吸収できるのは、まぎれもなく私がアスレティックトレーナー(ATC)としての教育を受け、決まったカリキュラムを修了し、資格を取得したからです。

私のようにペーパードライバーATではない、ちゃんとアスレティックトレーナーを職業として日々活動している人たちは私の何十倍もの知識+経験があるのです。

この人たちをぜひ活用してください。

自分が全部知ってて全部できなければいけないことなんてありません。

餅は餅屋。自分たちでカバーできないことは専門家に外注しましょう。

そうやってきちんと大切なものを大切にするための環境を整えていくことが、結果的にチーム力の向上や組織の発展につながっていくのです。

✔こちらも合わせてチェックしてください。

脳神経外科医のチームが作成している、医療従事者ではない一般の方が読んでもわかりやすく編集されている冊子です。

http://concussionjapan.jimdo.com

✔中山先生が筆頭著者をされているこちらの文献もわかりやすく書かれているので、ぜひご一読ください。全文のPDFがどなたでも無料でダウンロードできます。(2018/5/25追記)

脳振盪・スポーツ頭部外傷の検査と対応

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ゆうこりん

ゆうこりん

BOC公認アスレティックトレーナー(ATC)でもある看護師です。 現在は整形外科で病棟看護師として働きながら、スポーツ医学やアスレティックトレーニングをテーマに空き時間に気軽に読めるメディアを運営。休日にスポーツイベントや大会の救護などの活動も行なっています。 内科・耳鼻科・眼科混合病棟→米大学院→スポーツ整形外科。

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ゆうこりん

BOC公認アスレティックトレーナー(ATC)でもある看護師です。 現在は整形外科で病棟看護師として働きながら、スポーツ医学やアスレティックトレーニングをテーマに空き時間に気軽に読めるメディアを運営。休日にスポーツイベントや大会の救護などの活動も行なっています。 内科・耳鼻科・眼科混合病棟→米大学院→スポーツ整形外科。