こんにちは。ゆうこりん(@koji_i003)です。
2019年3月2日(土)、帝京科学大学にて行われた第20回 JATOアスレティックトレーニングシンポジウム2019に参加してきました。

もちろん、アスレティックトレーナーの資格を維持するためのCEU(継続教育単位)も大事です。
今回の記事は、シンポジウムでの学びのまとめです。
目次
トレーニング系よりメディカル系?
個人的な見解ではありますが、私はアスレティックトレーニングのセミナーって、超ざっくりわけて「トレーニング/パフォーマンス系」と、「メディカル系」の2つのカテゴリーがあると思ってます(もちろん、それらに分類されないものだって色々ありますが)。
世間的にはアスレティックトレーナー(以下、AT)=トレーナー=トレーニング教える人、ってイメージされる方も多いかもしれませんが、看護師育ちでATを目指した私としては、スポーツメディカルの専門分野としてのアスレティックトレーニングに強い関心と情熱をいつも持っています。
勢い余ってこんなメディアを作っちゃうくらいですからね・・・!
今回のシンポジウムの講義テーマはすべて、この”ゆうこりん分類”でいくと「メディカル系」にカテゴライズされる内容だったので、私の仕事や活動と照らし合わせて色々考えながら、とても興味深く聞いていました。
CPRについて、普段のBLS講習では考えないところまで考えた
▲写真:JATO広報部門より引用
1人目の講師はDavid C Berry氏。
様々なCPRの方法や、救急処置などについてエビデンスを交えながらお話してくださいました(EBPセミナーでした)。
スタンダードなCPRの講習は、みんな一度は受けたことがあると思いますが、
- 胸骨圧迫と腹部圧迫を2人で交互に繰り返すInterposed-abdominal compressions(IAC)-CPR
- うつ伏せで倒れている状態で行うCPR(modified Schafer Method)
- 胸骨圧迫を効果的に行うための様々なマシン
などなど、初めて知った概念をたくさんご紹介していただきました。

基本的なCPRのさらにその先へ

私は今まで受けてきたBLSのマニュアルを特に疑ったことはなかったのですが、それをさらに効果的にしたり、救急隊に引き継いだ搬送後の生存率を高めたりすることを考えている人が世界にはこんなにたくさんいるんだなということにまず驚きました。
私は幸運にも、スポーツ現場や街中で人が心停止して倒れた場面に遭遇したことはまだありません。
以前急性期の総合病院で働いていたときに何度か入院患者さんがCPRになったことはありますが、医療機器もマンパワーも豊富にある病棟なので、医師がわんさか集まってきてAEDとかじゃなくてDCとモニター管理、酸素つないでルートもとってエピネフリン投与・・・みたいな環境でした。
もしそれが野外で、メディカルが自分しかいなくて、出血もしてて、なぜ倒れたのか、患者がどんな人なのかもわからなくて・・・といった状況だったら全然違うはずです。
マニュアル通りにいかないことが多いでしょう。
そういう意味でも、いろんなCPRのバリエーションがあるという事実を知れただけでも、大きな収穫になりました。
今まで知らなかったことを知るというのが、まさに勉強の醍醐味ですね。
胸骨圧迫は機械がやる時代へ
▲写真:JATO広報部門より引用
こちらは機械が胸骨圧迫をし、人はバックバルブマスクで呼吸管理などをする、というデモです。
実は日本にもこの機械はあるそうですが、私は初めて見ました。びっくり!
- 機械は疲れない
- 一定の強さ、リズムを正確に守る
- 30回圧迫でビープ音が鳴り、その間に2回の換気を手動で行う設定ができる
- 1分間に約80回のペース。これは、しっかり胸骨を戻している(=心臓に血液が戻る)ので、押しまくる必要はないらしい
- 約10,000ドル=111万円くらい(!)
- この写真ではないですが、一ヶ所に圧が集中して肋骨などがバキバキにならないように、胸郭全体を包み込むように広く圧迫する機械など色々なものがある
ということです。
さらに機械を使った場合と、マニュアルでCPRを行った場合の生存率などについて研究したデータを解説しながら紹介してくださいました。
David氏の言葉でもっとも印象的だったのは、
これからは機械の時代になる。
これは患者にとってはもちろんだが、worker(救護を行う人)にとってもbeneficialである。
ということです。
認識にバイアスがかかっているのを承知で言いますが、これはいかにもアメリカらしい価値観だなと私は感じました。
今までCPRとかBLSの講習をいろんな場所でいろんな人から教わりましたが、こんなふうにはっきりと「workerにとってどう有益か」について配慮された言葉を聞いたことはなかったように思います。
あっても、「二次災害を防ぐために、まずは周囲の安全確認を」とか、「疲れる前に胸骨圧迫を交代しましょう」とか、そういう内容でした。
とにかく、目の前の人を全力で救いましょう!!!!!っていうのが、これまでの私のCPRの際のイメージでした。
それが、人がやらなくても機械のほうが確実だし、workerにとってもbeneficialですよね。って冷静に言われると、え、そりゃあ確かにそうですよね・・・。って、なんかふと我にかえったような感覚に陥るようでした。
救命も体力や情熱に頼るのではなく、効率化を求めていいんだ。ということを初めて知った感じです。
(ちなみに、Davis氏は大学でもこのような授業をたくさん教えてきて、その際のエピソードもいくつかお話してくださり、彼のこの分野に対する情熱がすごく伝わりました。誤解なきよう)
スポンサードリンク
ワールドラグビーから学ぶプレホスピタルケア

2人目の講師は、2015年のラグビーW杯でマッチドクターを務めた高澤祐治医師による「スポーツ現場におけるプレホスピタルケア~グローバルスタンダードとは~」という講義でした。
ラグビーは、医療面におけるグローバルスタンダードが非常に統制されているということが非常によくわかるお話でした。
防具類をつけずにトップスピードで大きな体をぶつけあうことから、コンタクトスポーツの中でも「ラグビーは交通事故みたいなスポーツだ」と表現されることもあるほどに、大きな怪我が起こりやすいハイリスクなスポーツである競技特性も関係しているのかもしれません。
World Rugbyが定める医療のグローバルスタンダード
▲Player Welfareのウェブサイトより
ラグビーでは、”医師”や”アスレティックトレーナー”といった、それぞれの国の資格や教育制度に依存した肩書きがあればいいわけではなく、World Rugbyが定めた資格制度で認定された専門家しかメディカルスタッフとして登録し、働くことができません。
- 参加国も開催国も、競技に関わるすべてのメディカルスタッフに対してグローバルスタンダード(世界基準)を設けた
- 世界中の人が、同じ言語で、同じレベルでメディカルケアを提供できるように教育を標準化した
これが、Immediate Care In Rugby(通称:ICIR)と呼ばれる資格です。
このWorld Rugbyが定める医療資格はレベル1〜3に分かれており、日本のトップリーグも含め、ある一定レベル以上のラグビーの試合ではレベル2以上の資格を保持していないと仕事をすることができません。
高澤医師の話では、ICIRは実技のウェイトが非常に大きいこと、また整形外科医でも循環器やアレルギーなど普段は専門外であり、勉強するのは「医師の国家試験以来」のような範囲もきちんとカバーすることが求められるそうです。
なお、この資格は一度取って終わりではなく、3年ごとに更新の義務があります。
形だけの資格ではなく、実際に現場で使える知識とスキルを身につけるための試験であることがよくわかります。
頭部外傷への取り組み

また、World Rugbyは頭部外傷に対しても様々なルールを設けています。
講義では、ラグビーのW杯でも日本のトップリーグでも、昔に比べて年々頭部・顔面の外傷の件数が大きく増加しているというデータを見せていただきました。
これは、実際に頭部外傷がよく起こるようになったということではなく、昔であれば「なんでもない、大丈夫」と判断されていた状態が、診断基準をきちんと整えることによって「脳振盪である」と正しく判断されることができるようになってきたということを示唆しています。
高澤医師が紹介してくださった1984年の映像では、こんな様子がおさめられていました。
激しいコンタクトのあと、選手がピッチに倒れて動かなくなります。
すぐにコーチかトレーナーのようなスタッフが倒れた選手のそばにかけよってきます。
手に持っているのは、メディカルキットでも担架でもなく、大きなヤカン。
そのヤカンをおもむろに倒れた選手の頭にかざし、中に入った”魔法の水”をばっ!とかけると、あら不思議。
まるで何事もなかったかのように、倒れていた選手は立ち上がり、プレーに戻っていきます。
それを見て湧き上がる観客。
拍手喝采。
めでたし、めでたし。
・・・みたいな。
今そんなことがあったら、すっごい問題になりますよね。
そんな驚きの時代から35年がたち、
現在World Rugbyでは
- HIA(Head Injury Assessment)の導入:評価の間、最大10分間一時的に交代選手が投入できるなど
- TMO(Television Match Official)の導入:映像判定
- 健常時のベースラインの測定
- コーチ、アシスタントスタッフ、選手に対する脳振盪の教育
など、脳振盪や頭部外傷をきちんと診断し、見逃さないような環境づくりを推進してきています。
以前、スポメディ!でも脳振盪や頭部外傷についてまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
まとめ
スポーツの最中に起こりやすい怪我や事故の対応について、世界のスタンダードは日々変化してきています。
昔は根性でなかったことにできた怪我が、今は脳振盪と診断され、その日のうちにプレー復帰は禁止になったり。
昔は運動中に水を飲んではいけないと指導されていたけど、今はきちんと水分摂取することが重要であったり。
昔はやってたトレーニングが、今は無駄どころか怪我につながると言われていたり・・・。
定期的に外で勉強し、知識をアップデートすることは重要です。
今まで知らなかったことをたくさん学べて、非常に充実したシンポジウムでした。
お知らせ
2019年5月11日(土)、12日(日)にはJATOが主催する「WFATT 2019 第10回ワールドコングレス 東京」が幕張メッセで行われます。
Exercise For Total Healthをメインテーマとし、国内外から著名な講師の方々が多数ご登壇されます。


まだ参加申し込みを受け付けていますので、ぜひ公式サイトをチェックしてみてください。
文字通り世界中で活躍されているアスレティックトレーナー、セラピスト、医師らの貴重な知見を、一緒に学びましょう!
スポンサードリンク

ゆうこりん

最新記事 by ゆうこりん (全て見る)
- JATOの「U25向けキャリアセミナー」がとてもよかった。 - 2020-05-31
- 「ATCになりたい!」と思ったら絶対にチェックすべき情報源3つ - 2020-05-17
- 外出自粛中も「ウェルネスを保つ」最強の過ごし方。 - 2020-05-07