【vol.5】現役米アスレティックトレーナーは、どんな勉強をしているのか?

こんにちは。ゆうこりん(@koji_i003)です。

現在アメリカのプロサッカーチームでアスレティックトレーナーとして働く梅木ATCが、リアルな体験を書き下ろしでシェアしてくれるこの連載コラム企画。

【新連載】アメリカのプロサッカーリーグで働くアスレティックトレーナーとは?

2019-01-03

今回は、プロになってからはどんな勉強をしているの?というテーマでお話していただきました。

ゆうこりん
アメリカだと、国土広すぎてセミナー参加とかもあんまり気軽にできなさそうですよね。

うめきくん、どんな感じで勉強されてるんですか?

うめきATC
では私の経験をもとに、お話させていただきますね!

働きだしてから勉強したこと

うめきATC
私がプロのアスレティックトレーナーとして働き始めたのは今から4年前のことです。

働き始めの頃は、アスレティックトレーニング業界でメジャーな資格を取るための勉強が中心でした。

これはアスレティックトレーナーとしての資格だけではなく、それ以外にも資格を持っていた方が仕事を取る際にプラスに働くからです。

私が過去に取った主なものは、National Strength and Conditioning AssociationCertified Strength and Conditioning Coach (CSCS)と、National Association of Sports Medicineが出しているPerformance Enhancement Specialist (PES)です。

NSCAのサイトより

▲参考:NASMのサイト

どちらの資格も比較的持っているアスレティックトレーナーが多く、特にプロスポーツで働く際にはこのあたりの資格を持っていることはほぼ必須になります。

上記の資格の勉強はもちろん自分の専門領域を広げる目的もありましたが、正直に言うと就活で有利になるという意味合いの方が大きかったです。

どちらも資格も基本的な理論を学ぶためのもので、駆け出しのアスレティックトレーナーにはとても良い勉強になると思いますが、正直学校で習った以上のことは学ぶことはできないなという印象でした。

これらの資格の他にGray Instituteという団体が提供しているCertification in Applied Functional Science (CAFS)という資格も取りました。

これに関してはCSCSPESの時とはちがい、資格よりも知的好奇心にかられて勉強したもので、資格はおまけみたいなものでした。

▲参考:Gray Instituteのサイト

この『Applied Functional Science』という理論は、テキサスの大学院時代に実習先で知り、当時からとても興味を持っていたので、さらに自分で勉強しようと思いました。

資格以外の勉強でいえば、実際に働いていてわからなかったことや疑問に感じたこと、興味の湧いた分野についてPubMed (論文検索サイト)で論文を読んでその分野について徹底して知識を深めていくということもやっていました。

うめきATC
特に働きはじめの頃は、大学でのインターン/GAをしていたので、長い時間拘束されることが多い反面、かなりの空き時間があり、その時間の大半を論文を読むことに当てていました。
参考リンク
PubMed

学生時代の勉強との違い

▲オフの日に論文を読みあさる@スタバ。(写真提供:うめきATC)

大学院生のときは、とにかく学校の勉強と実習で忙しくほぼ学校のカリキュラムの勉強しかしていませんでした。

語学学校を経ずにダイレクトでの入学だったので、特にはじめのころは家に帰れば毎日の予習と復習で手一杯で、プラスアルファの勉強をする余裕はまったくありませんでした。

唯一あった長期休み(大学院2年生の夏に1ヶ月弱)もインターンをしていて朝から晩まで働いてたので、家に帰って来る頃には勉強をするエネルギーも残っていませんでした(言い訳です。笑)。

うめきATC
今振り返ると、学生時代にもう少し資格の勉強をしておけば良かったなと思います。

ある私のクラスメイトは大学院での勉強はそこそこという印象でしたが(笑)、学生の間にCSCSの資格を取っていたことが後押しとなり、プロサッカーの通年インターンに採用されていました。

特にATCになりたての頃はみんなほとんど経験に差がないので、ちょっとした資格があるだけでも他の候補者に差をつけられるかもしれません。

なので今の学生さんには「学校の勉強も大切だけど、プラスアルファで資格も取っておくと就活を少しだけ有利に進められるかも」というアドバイスを送りたいと思います。

当然資格がすべてではありませんが、一項目として評価されるという事実はあるでしょう。

勉強テーマの見つけ方

前述の通り、私は現場で仕事をしていてわからなかったことや、仕事から生まれた知的好奇心に沿ってセミナーを受けてみたり、論文や本を読むことが多いです。

具体的には、ACLのリハビリを見ていた時であれば、ACLのリハビリのエクササイズや競技復帰の際のパフォーマンステストなどについてレビューの文献を読んで、そこに引用されている個々の文献で興味のあるものを一つ一つ読んでいく、という方法がひとつ。

他には、一時期とんでもない件数のそけい部に関する怪我(肉離れやヘルニア)に出くわした時に、それに関わるあらゆる論文を片っ端から読んだりもしていました。

同僚のATC(アスレティックトレーナー)やその他のスタッフのやっている仕事を見たり話を聞いている中で、面白そうな資格を持っている人の話から興味を持ち、それをきっかけに自分も勉強を始めてみるということもあります。

例えば、2016年にメジャーリーグサッカーのチームでスポーツサイエンスインターンとして働いていた時は、傷害予防やリカバリーに関するデータの管理についてボスから色々と話を聞いていく中でどんどん興味が湧き、ひたすらその分野に関する論文を読んでいました。

どこからスタートさせるかというのには正解はないと思いますが、まずは自分が興味のある分野についてとことん勉強してみることで、プロになってからも勉強するという習慣が自然と身につくのではないかと思っています。

私自身、もともと「読む」ことはあまり得意ではないのですが、興味のある分野であれば抵抗なく、楽しく読み進められます。

うめきATC
「勉強しなければ!」というよりは、「もっと知りたい!」という純粋な興味にしたがって勉強してみると良いのではないでしょうか。

勉強方法について

ここまでもお話してきましたが、論文を読むと言うのは比較的取り掛かりやすいかと思います。

というのも、論文はほとんどコストゼロで読めますし、いつでもネットで探すことができるからです。

特に学生時代や卒業したての頃であれば、大学のデータベースにアクセスできるのでフリーアクセスになっていない論文でもほとんど制限なく読むことが出来ます。

大学を出ると大学のデータベースにアクセスできなくなってしまいますが、私はResearchGateというサイトを使って、どうしても読みたいものがある際は直接その文献の著者に問い合わせて、全文を取り寄せるようにしています。

参考リンク
ResearchGate

また、最近はプロフェッショナルブログを読むことも多いです。

有名なクリニシャンやコーチ達は自分のブログで情報を発信していることが多いので、その人達のブログを通じて新たな知識を得たり、またそのブログに引用されている論文に飛んで、さらに深くその分野を勉強する、ということもよくやっています。

うめきATC
本を読むというのはそれなりのコストが伴うので、特に学生時代は読みたいものを好きなだけ・・・というわけにもいかないかもしれませんが、最近ではKindleで読める専門書もかなりあり、圧倒的にコストも抑えられるのでかなりオススメです。

最後にセミナー参加、もしくはオンライン講座

これらは前述のどれと比べても圧倒的にコストがかかるので、学生やインターンの時にはなかなか手をつけづらいものです。

ただし、お金がかかる分、事前にまとめられた膨大な情報量を一気に学ぶことができるのでとても良い勉強方法だと思います。

プロとして働き始めれば、大学やチームがある程度勉強に関するコスト(資格維持の為)を負担してくれるので、セミナーなども比較的自由に参加できるようになります。

学会に参加すると言うのも良い勉強の手段かと思います

おまけ:今ホットなトピック

ゆうこりん
なるほど。

具体的にどんな感じで勉強をされてきたのかすごくわかりやすい!

最後に、うめきATCに今、個人的にホットなトピックについても聞いてみました。

Marc proとH-Wave

周りで話題になってるものはあまりわからないのですが、個人的にオススメのモダリティがMarc proという電気療法の器具です。

これはFC Dallasというチームでインターンしていた時に初めて知ったものだったのですが、それ以来ずっと使っています。

▲Marc pro(写真提供:うめきATC)

Marc proはバッドを貼って電流を流して筋肉収縮させるものなのですが、これは末端に溜まった運動による老廃物や怪我による腫れを取り除く目的で使われます。

言い換えるとリカバリーのツールとしての役割と、怪我の処置のツールとしての役割と2つの用途があります。

ちなみに私のチームでは2台 (1台約6万円)、もう一つH-Wave (1台約30万円!) というものも使っています。

▲H-wave(写真提供:うめきATC)

H-waveはドクターの処方がないと買えないもので、痛みをコントロールする機能もついているため(Marc proにはない)、かなり高くなっています。

Marc proも決して安くはないですが、特に足首の捻挫などの腫れを予防し取り除く際に絶大な効果を発揮するので、1台持っておくだけでもかなり重宝すると思います。

「走り方」

他に個人的にホットな話題としては、走り方(running mechanics)の勉強です。

Derek Hansenという人が、ハムストリングの肉離れの競技復帰として走り方やスプリントをリハビリの一環として使っている論文やブログを最近はよく読んでいます。

ちょうどハムストリングのリハビリを去年・今年と何件か担当していたところだったので、そこからずっと勉強しています。

日本ではSchool of Movementというものが話題になっていますね(大学の同期が講師の一人として活躍中!)。

「走る」ことは、大体どの競技にも含まれている要素です。

アスレティックトレーナーも競技復帰に携わる役割として、「走り」の基本的な知識や教え方は、しっかり勉強していて損はないと思っています。

もし興味がある方は『Derek Hansen』で検索してみてください。

まとめ

  • なるべく学生時代に資格の勉強をしておくのがおすすめ
  • 気になることはどんどん論文検索(Pubmed、ResearchGateなど)
  • プロフェッショナルブログも知見の宝庫
  • 職場の資格維持サポートがあればどんどん活用しよう
  • 「もっと知りたい!」を素直に突き詰めよう!

どうやって勉強したらいいか迷っている方や、勉強したいけど何から勉強したらいいか分からないという方に少しでも参考になれば幸いです。

文/うめきあきら
編集/ゆうこりん

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ゆうこりん

BOC公認アスレティックトレーナー(ATC)でもある整形外科看護師です。 スポーツ医学やアスレティックトレーニングをテーマに空き時間に気軽に読めるメディアを運営。スポーツイベントの救護、スポーツ医学関連団体の広報担当などの活動も行なっています。 内科・耳鼻科・眼科混合病棟→米大学院→スポーツ整形外科。

ABOUTこの記事をかいた人

BOC公認アスレティックトレーナー(ATC)でもある整形外科看護師です。 スポーツ医学やアスレティックトレーニングをテーマに空き時間に気軽に読めるメディアを運営。スポーツイベントの救護、スポーツ医学関連団体の広報担当などの活動も行なっています。 内科・耳鼻科・眼科混合病棟→米大学院→スポーツ整形外科。